1960年ごろから堺東商店街に店を構えて、祖父から父へ、父から息子へ、現在の店主、織田雄弘さんで三代目。
店先の大きなケースには関西の豆腐の品評会で賞をとったという「本にがり豆腐」が並び、隣のケースには厚揚げ、ひろうす、油揚げなどが揃っている。
噂を聞きつけてやってくる一見さんには「本にがり豆腐に合うのはだし醤油、厚揚げはフライパンで焼くだけ」と、おすすめの食べ方を丁寧に説明。
その一方で、ふらりと現れた常連さんとは一言二言、言葉を交わしたかと思うと、みるみる間にお豆腐2丁に厚揚げ盛り、豆乳、おからが袋に詰め込まれて”いつもの”セットが出来上がり。
正真正銘、この町で信頼されたお豆腐屋さんだ。
今でも一緒にお店に立ち続けながらも「昔のことを言うてもしゃあない。息子は勉強してるから息子に聞いて」と話すお父さん。
店を引き継いだ3代目は、それほど勉強熱心だった。
「最初の関西の品評会で入賞したのは大阪の豆腐屋さんばっかりやったんですよ。そのくらい大阪のレベルは高い。最初は自分のところのがうまいと思ってたけど、ほかの豆腐を食べた時にカルチャーショックを受けて、もっと自分のところも美味しくしようって研究したんです」
豆腐仲間たちとどこの大豆が美味しいか情報交換をしたり、作り方を共有したり、そんな研究の結果「本にがり豆腐」が現在の味に至ったのだという。
試行錯誤を繰り返したのは看板商品だけではない。
一緒に並んでいる「枝豆豆腐」や「希少大豆を使った豆腐(夏季限定)」など、変わり種の豆腐たちもたくさん生み出されていた。
お客さんから人気だったカラシを練り込んだ豆腐、お父さんから復活が熱望されているにんにく豆腐、唯一失敗して日の目を見なかった赤ワイン豆腐というのもあったらしい。
「とにかく食べてみてくれって言いたい。スーパーのものとは違うっていうのは自信持って言える」と語る雄弘さん。
「油も調味料って言えるくらいこだわってる」という油揚げはじゅんわり噛み締めて美味しく、看板の本にがり豆腐は濃厚であまみのある大豆の味がどっしりやってくる。
今ある商品にこだわりと自信を持ちながらも三代目の探究心は止まらない。
「総菜豆腐を増やしたい。次はよもぎとかええんちゃうかな」と、次のアイデアに想いを巡らせる。
進化を続ける昔ながらの豆腐店、ぜひその味を確かめてみてほしい。