1854年(安政元年)創業、堺で長く愛される老舗茶舗。
「家に急須が置いてあることが少なくなりましたが、やはり急須で入れた美味しいお茶の味を知ってほしいです」
そう話してくれたのは、老舗の看板を守る5代目当主の西尾晋造さん。
堺は茶道が盛んだったが、お茶の生産地ではない。そんな堺に美味しいお茶を持ち込みたいと、初代が宇治まで買い付けに行ったのが、この店の始まりだそうだ。
昔は電車がなかったため、宇治から堺まで船でお茶を運んできたというから驚きである。手間がかかっても良いものを提供するという精神は、先代の頃から現在まで受け継がれており、今でも直接農家から仕入れを行なっている。
店には常時30から40種類の茶葉を用意しており、お客さんの好みを聞きながら、それぞれに合うものを提供している。
西尾茗香園のお茶のファンは多く、その需要は全国各地から。
家業を継ぐ前はサラリーマンだったという西尾さん。4代目である父に3年間修行を受けたという。幼少の頃から味覚は良かったが、お茶に詳しいお客さんが多いので、その人たちから勉強するなど、店に入ってからその才能に磨きをかけたのだとか。
新茶はすべての産地のものを飲み比べて、良いものを選んでいるそう。「自然のものを相手にしているので、丁寧に向き合っています」と語る店主からは、日本茶への誠実さが滲み出ていた。
月に1度、住吉大社で開催されている「初辰まいり」にも毎回出店。レジの後ろに掲げられている、一枚板に書かれた「住吉大社御用達」の文字は信頼の証だ。
店頭に並ぶ、千利休のパッケージは岡山の製菓会社とコラボレーションした抹茶のチョコレート。他企業と提携したり、百貨店の催事に積極的に参加したりと、日本茶の可能性を追求しながら、その良さを広めるための広報活動にも力を入れている。
「堺はお茶と関わりが深い街なので、お茶の力で堺を活性化出来たらと思っています」と西尾さん。
さかい利晶の杜にお茶の提供をしているといるそうで「そこで飲んだ人が美味しいと感じて、お茶を好きになってもらえたら」と話してくれた。
また店内では、お茶を淹れたことがないという人にも、挿れ方を丁寧にレクチャーしてくれる。「いろんな人に美味しいお茶を知ってもらいたい」と、5代目の思いは熱い。
代々受け継がれてきた老舗だからこその、お茶への愛あふれる店。ぜひ一度足を運んでみて。