着付けとヘアメイク専門のプライベートサロンで、事業を営んでいる川口 加奈子さんは美容師キャリア30年のベテラン。
15年前に本格的に着付けを学び、フリーランスとして撮影の現場で活躍したのち、2021年10月末に拠点を大小路五間に構えた。
振袖や着物の貸し出しから着付け、撮影の手配が主で、浴衣や着物を持ち込んで着付けとヘアセットを依頼することも可能だ。
仕事がぐんと広がったのは大小路五間にやってきてから。
「お店を持ちたい」と物件を探していたときに、この場所を見つけて引き寄せられるように内覧に来たという。
まだぼんやりとしていた「やりたいこと」が、ここに来て形を成して積み上がっていった。
これまで縁がなかったという堺のまちも、来てからは「堺ってすごくいいやん!」と新しい魅力を見つけたのだとか。
歴史を感じられつつ、あたたかみがあるサロンは、川口さんが作り上げる着物スタイルに見事にマッチしている。
着物レンタルの流れは、ネットのリストから気になる着物をいくつかピックアップし、サロンに来て相談したり体に合わせたりしながら決める。
用意している着物は200着以上。七五三着物から婚礼衣装まで揃っています。
すでに仕立ててある着物を、着る人の体に合わせて、寸法が合わない着物も綺麗に着付ける。
川口さんによる着付けの魔法だ。
お客さんの好みや憧れのスタイルを引き出してくれる、心地よい距離感での会話。また、デザインだけでなく、TPOや着物のルールも加味しながらプロのアドバイスをしてくれるので安心だ。
「このまちで気軽に着物のことを相談できる、おばあちゃんみたいな立場になれればいいかなって」
川口さんはそう話す。
初心者にとっては難しい「着物」。昔は家にいるおばあちゃんが着物のことを教えてくれたり、受け継いでくれたりしていたが、今では普段から着物に親しんでいる人はかなり少ない。
「着物のことで困っても、ここに来たらなんとかなると思ってもらえたら」との思いがあるそうだ。
そして川口さんの大きな強みは、地毛で日本髪を結うことができるところ。
昔ながらのやり方で、日本髪を作ることができる場所はそうたくさんない。
高い技術が必要な日本髪地毛結いのために、今でも稽古を欠かさないという。
川口さんのお父さんも理容師で、美容師を始めたころに、お父さんから髪結い道具の「つげ櫛」を贈られたそう。
美容師の現場では使わないものの、ずっと大切にしていて、数年前に本格的に日本髪をやり始めてからやっと仕事道具に加えられたという。
着物に惹かれたきっかけは、お母さんの着物から。
綺麗な紫の着物を見たときに感動した感覚を、今でも覚えているそうだ。
一番最初にときめいた気持ちを心の中に持ちながら、今でも変わらず着物にワクワクしているとのこと。
父から受け継いだつげ櫛と、最初のきっかけを与えてくれた母の着物。
ずっと自分の中にあったものたちが、人生を重ねる中で繋がっていったのだ。
今後の展望について聞くと「神社での婚礼に力を入れたい」とのこと。
有名な神社での婚礼も人気だが、慣れ親しんだ地元の神社での結婚式を叶えて欲しいそうだ。
「お客さんからの要望をできる限り叶えたい。自分でできないことでも、できる人を探すことはできます。着物について私ができることはすべてやります。
どこに頼んだらいいんやろっていうことも相談してほしいです」と川口さんは話してくれた。
着物と技術でお客さんを幸せにする、小さなサロンをぜひ訪れてみてほしい。