堺銀座商店街の路地で2000年から営業する、かつ丼専門店「まるは」。
揚げたて肉厚のかつに、旨味のある出汁を含んだ卵、かつ丼のみのシンプルなメニュー。
一杯650円というリーズナブルな値段だが、ボリュームはじゅうぶん。もっとお腹いっぱいになりたいという人にはご飯1.5倍の「てんこ盛」や、かつ2枚と卵2つの「かつ丼ダブル」を選ぶこともできる。お客さんがひっきりなしに訪れる、カウンター7席の小さな店。20年間ここでかつ丼を作り続けているのは、店主の畠中孝典さんと妻の久代さんだ。
神戸のかつ丼屋さんで修行を積んだ孝典さん。当初から「ゆくゆくは自分のお店をもちたい」という話をしていて、店のイメージもすでに思い浮かべていたそうだ。
かつに使うのは「味がしまって美味しい」という理由から肩ロース。鍋の大きさに合うように100g~110gにカットし、注文が入ってから揚げる。卵を素早く入れるのは師匠直伝の技で、パッと広がり卵が均等にかかるから良いのだとか。
修行先では「かつを作る工程は教えるけど、つゆだけは自分で作ってね」と伝えられ、最初は盗み見しながら覚えたという。出汁は継ぎ足し継ぎ足しで、実験を繰り返し、試行錯誤を重ねてアップデート。久代さんの冷静な意見を聞きながら、甘辛い普通のかつ丼とは違う、この店の味を作ってきた。
店の切り盛りもバイトは雇わずに夫婦2人で。
「一人だけではできないです。奥さんと阿吽の呼吸で連携が取れるからこそ、素早くお客さんにかつ丼を提供できています」と孝典さん。通し営業のため、1日中カウンターの中でかつを揚げているのはそうとう大変なことだ。一方で、今後のことを伺うと「奥さんの休みをもっと増やしてあげたい」と話してくれ、ご夫婦で支え合って店づくりをしていることが伝わってきた。
そして、ここに通うお客さんたちもお店を支えている。
店に飾られた「全国丼グランプリ」の賞状は、店主が応募したのではなくお客さんが推薦してくれたものだという。さらに、そのグランプリは孝典さんの修行先のお店も受賞しており、それにも縁を感じたのだとか。「みなさんが来てくれているおかげです」と久代さん。お客さん発信で店の良さが全国に広まっているということが感じられるエピソードだ。