創業明治28年の老舗和菓子屋。
店に並ぶのは、千利休が珍重したといわれる茶碗を模したお饅頭の斗々屋茶碗に、包丁職人のお土産として構想が練られた包丁ぼうろなど、堺を形作るものをモチーフにした和菓子たち。
5代目の野間耕三さんに製造のこだわりを伺うと、ほとんどの和菓子屋があんこを専門店から仕入れている中で、こちらは自家製餡が特徴だという。製造するあんこの種類はなんと30種類。柚餡はジャム状にして寝かせて、白餡は一気に炊き上げて、たまご餡は口に入れた時に香りがふわぁっと広がるように黄身の量を調節して……など、種類によって工程にこだわりが。さらに、同じ餡でも合わせる和菓子のサイズによって甘さと硬さを変えているのだとか。
小豆の仕入れ先はここ50年変わらず、不作の年でコストが高くなってしまっても質は絶対に落とさないようにしていたそうだ。
現在は講習での講師を務めるなど、後進の育成にも携わる野間さん。
店に入ったころは、少しでも先輩から何か教わろうと遅くまで居残り、休みの日も練習のために手伝いにきていたという。
「同級生はエエ会社に就職していったけど、僕は朝からあんこ炊いてた。でも、今思えばあれで正解やった」
製造の現場から入った経験があるからこそ、今も小豆の質や味は自分で確かめることができるのだ。
昔ながらの製法を守りながら、自らの経験と見聞から改良する部分もあるという。その一方で味と質にはこだわり続けている。
「手軽なものもあるけど、良いところは曲げたらあかん」と、穏やかな口調ながら力強く語ってくれた。
今新しく構想中だというのは、何と家庭で作ることができる和菓子のキット。
「小学校低学年の子とか、これまで和菓子を食べたことがないっていう子もいる。これからは20代、30代の人にどれだけアピールできるか。自分で作る楽しみを味わってもらうのがいいかな、と考えています」と教えてくれた。
実はこちらのお店は今年の堺の小学生が学ぶ教科書でも取り扱われている。
伝統を大切に守りながら、時代にあった商品の開発、そして和菓子の普及にも力を注ぐ老舗。
是非、その味を求めに訪れてみてほしい。